第118章

病室の空気は、止まっていた。

白鳥遥は早口で、声は掠れていた。時間を奪い合うように。

「姉のことは……私自身、あまり知らないんです」

枕に体を預けたまま、指先が無意識にシーツの端を握り締める。目元はまだ赤かった。「お母さんは、あの人を産まされたんです——父親が誰なのか、一度も言わなかった。私だって、あの人の存在を知ったのは、ずっと後になってからで」

結城司は病床の脇に立ったまま、座ろうとしなかった。肩にはまだ包帯が巻かれていて、コートは椅子の背に掛けてある。その表情は、感情を意図的に圧し込めた後の静けさだった——表面は凪いでいる。底にあるものは、まだ散っていない。

「『榎本理恵』とい...

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