第12章

表参道の午後は、人の流れが緩やかだった。

 

タクシーの後部座席で、凛は窓の外を眺めていた。行き交う人影と並んだショーウィンドウが、視界の端を流れていく。見ているようで、何も見ていなかった。

スマートフォンが震えた。

 

林希乃。

 

「もしもし」

 

「凛——」受話器の向こうで、希乃の声が圧を帯びていた。「桐生さんが来てる。法務の人間を連れて、正式な契約書まで持って」

 

凛はすぐに答えなかった。

 

「提示額が三倍になってる」

 

窓の外の街が、静かに流れ続けた。前方の信号が赤に変わる。凛は目を上げ、一秒だけ考えた。

 

三倍。

 

桐生拓のやり方ではない。あの男は場の空気を読む。分を弁え...

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