第22章

藤堂涉はスマートフォンを窓台に置いたまま、すぐには視線を外さなかった。そのまま立ち尽くし、表情は静かだったが、口の端にかすかな苦みが漂っていた。

 

「要件がある」——あの一言がなければ、凛は来なかった。

 

それはわかっていた。この五年、凛は誰にも迷惑をかけなかった。とりわけ、彼には。涉が手を差し伸べるたびに、凛はいつも慎重に受け取った。心の中で量りにかけ、分寸を確かめてから、ようやく応じる。そういう女だった。

 

要件。あの二文字を使った。そう、本当に要件はあった。弁護士の件は事実だ、それは嘘ではない。だが涉にはわかっていた——そう言わなければ、凛は穏やかに断っていただろう。仕事があると、...

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