第28章

「無理難題だ」

絞り出した言葉は、自分でも情けないほど薄かった。

結城司は背を向けた。出ようとした。

廊下から音が来た。ヒールが大理石を叩く音、それから女が鼻歌を歌っている——軽い調子で、近づいてくる。

足が止まった。

ここは女子トイレだ。

自分は今、女子トイレにいる。

思考より先に体が動いた。振り返り、凛の腕を掴み、隣の個室へ押し込んで、自分もそのまま入った。肘が仕切り板に当たる。錠が落ちる音がした。

個室は思っていたより狭かった。

凛は壁と自分の胸の間に挟まれていた。逃げ場がない、文字通りの意味で。背後は磁器のタイル、正面は自分、両脇は仕切り板。体温がシャツ越しに伝わっ...

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