第35章

望月咲が飛び込んできたとき、化粧はすでに崩れていた。

 

マスカラが目の下に滲み、口紅が口角まで滲んでいる。ドレスは高級仕立てで、生地は本物だったが、走ってきたせいで無惨にくたびれていた——誰かに握りつぶされて捨てられた花のように。

 

ドア口に立ち、息を切らしながら、視線が室内を素早く走った。

 

桐生拓を見つけた。

 

困惑。

 

次に、凛を見た。

 

目が変わった。

 

その変化は速かった。カードをめくるように、困惑から毒気へと一気に裏返る。凛を二秒ほど見据えてから、口角が下がった。

 

「あなた、誰?」声は尖っていて、酒の匂いが混じっていた。「何様のつもり?人の男に色目を使って、自分が...

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