第53章

「少し疲れただけだと思います。廊下の灯りも暗いから、顔色が悪く見えたのかもしれません」

 

わざと軽い調子で言った。

 

体の不調を押し込めた。今じゃない。すぐに話題を変え、ふたりに声をかけながら、一緒に病室のドアを押し開けた。

 

遥はまだそこにいた。

 

廊下の拐角の暗がりに身を潜め、ゆっくりと閉まっていく病室のドアを、じっと見据えていた。さっきまで顔に浮かべていた娇羞の色は跡形もなく消え、代わりに歪んだ嫉妒が胸の奥からじわりと滲み出していた。

 

誰もいない廊下に向かって、低くつぶやいた。

 

「星野凛……本当に、恩知らずね」

 

司は凛がふたりの子どもを連れて入ってくるのを見て、目元が...

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