第9章

穏やかな声だった。礼儀正しかった。

凛の背筋が、瞬時に冷えた。

この名前を知っている人間は、少ない。数えられるほどしかいない。この番号は、その中にない。

「お間違えです」

電話を切った。

スマートフォンを手に握ったまま、数秒、立っていた。

もう待てない。

諒と陽太は、結城家本邸にいるはずだ。

あそこは結城家の心臓部だ。本来なら、踏み込むべき場所ではない。

でも行くしかない。

足首の包帯を確かめ、車の鍵を取り、ドアを出た。

星野凛は跛を引きながら、最後の一区間を歩き切った。

結城家本邸の門が、朝の光の中にその輪郭を現している。鉄扉、石壁、松の枝が塀を越えて垂れ下がっていた。...

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