第12章大丈夫ですか?

六月

まだ頭がくらくらしている。空気は重たくまとわりつき、息を詰まらせるほど濃い。鏡から目を離せないまま、そこに映る少女を見つめる――けれど、その顔は……まるで見知らぬ誰かのようだった。

なんてみじめなの。

エルメスに婚約者がいるなんて、いまだに信じられない。

もう彼をエルメスと呼ぶことすらできない。口にするとひどく不自然で、だから言い直す――グランデさんには婚約者がいる。

その言葉はまだ頭の中で現実味を持たない。誰も笑わない悪趣味な冗談みたいに、ただ不気味に響くだけだ。婚約者。胸が痛み出すまで、その音節を頭蓋の内側で何度も反響させる。

じゃあ、あの女がそうなんだ――彼が「どうでも...

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