第143話ジューシーなものを探す

~ヘルメス~

付箋メモに最後の一行を書き終えるところだ――また記憶が抜け落ちる前に書き留めておく、個人的なリマインダーのひとつ。字はせかせかしていて、ほとんど怒っているみたいに見える。だが、もう二度と忘れるわけにはいかない。少なくとも今日だけは。

腕時計に目を落とし、先ほど送っておいた依頼の返答を待つ。頭の中は雑音の靄みたいに濁っていて、そこへ――

「グランデさん?」

ヴァネッサの声が、かすかに開いた扉の隙間から割り込んでくる。「下の階で……少し、騒ぎになっているみたいです。最高コンプライアンス責任者のオフィスで」

眉間に力が入った。「何だって?」

彼女はためらい、頭の横をかいた。...

ログインして続きを読む