第176話またあんなふうに私の名前を言って

六月

おすすめの曲:ヘヴン――ガルー

頬を伝って涙が一筋、落ちていく。私はゆっくりと目を閉じた。

安堵の涙――そんなものを自分が流す日が来るなんて、思いもしなかった。彼は私を覚えている。

かつて彼にとっての私、そのすべてとしてではない。けれど、この「今の私」として。彼のオフィスの秘密の関係として。

それでも、覚えている。それだけでいい。

「もう一度、キスしてもいいか?」

震える声。懐かしさと、見知らぬ気配が同居している。

答えられない。私はただ――凍りついたみたいに立ち尽くし――彼の唇が私のそれに触れるまで、動けなかった。

彼の唇が触れる。それは、水面を破って甦る記憶みたいだ...

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