第189話エレイン

六月

フロントの電話が、鋭くけたたましく鳴り響く。ケイラはそれをひったくるように取り上げ、話を聞くうちに目を大きく見開いた。

「ジュン……」受話器を手で覆いながら、彼女は囁いた。「信じられないよ。ファン・デル・リント家――チューリヒの大富豪よ。いま正式に予約を確定したって。来週、あのヴィラを使いたいんだって」

私は手元のタブレットから顔を上げない。親指の下で宿泊客の予定表が滑っていく。整然としていて、隙がない。

「専用機は確保したの?」私は落ち着いた声で訊いた。

ケイラは素早くうなずく。「うん。でも、夕食のときにスタッフをひとり増やしてほしいって。それから、パリから専属シェフを呼んで...

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