第194話私のものになりましょう

六月

最初に感じたのは、そよ風だった。

やわらかく、潮の気配を含んだひんやりした風が肌を撫で、そのあとに海の音が届く――ゆっくりと、辛抱強く、まるでこの世の何ものももう急ぐ必要などないかのように、波が岸辺をさらさらと洗っていた。

目を開けると、光が金色と淡い桃色を帯びて、あたり一面にこぼれていた。太陽はまだ昇りはじめたばかりで、低く、やさしく、まだ熱を持ってはいない。海面を、溶けた硝子のように染めている。

私は、自分のヴィラのそばに置かれたビーチベッドに横たわっていた。

一瞬、胸がひやりとする――病院、血、恐怖。けれど私は顔を横に向ける。

エルメスがいた。私のそばの砂の上に座り、裸...

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