第8章

「ただ消えていただけ。記憶喪失になったわけじゃない」

彼女は目をきらきらさせ、無実を装おうとした。

「何のことだか、わからないわ……」

「大学三年、図書館東側の隅」

私は一言一句、区切るように言った。

「私の前に立ちはだかって、七海浩紀をいくらで囲ってるのかって訊いたわよね」

千葉恵里菜の表情が微かにこわばったが、すぐに元に戻った。

「涼宮、勘違いじゃない? そんな昔のこと……」

「ホストっていうあだ名、最初に言い出したのはあなたよ」

私は続けた。

「それに、七海浩紀が授業で発言するたび、あなたは後ろの席で彼の方言を小声で馬鹿にしてた」

千葉恵里菜の目に動揺が...

ログインして続きを読む