第103章

彼女には、餌が必要だった。田中剛志が恐喝されれば、金を工面しようとして林遥香に泣きつく。だが林遥香には金がない。秦野彰の資産は凍結済みだ。追い詰められた林遥香は、結局、自分の足で約束の場所へ来るしかない。

――口を塞ぐために。

陸川時生は、彼女の一連の手順を黙って見届けていた。

「明日の午後3時だ」

陸川時生が言う。

「雨が降る」

「ちょうどいい」

林夕葵は淡々と返した。

「雨なら、痕跡も流せる」

N市郊外。朽ちかけた賃貸の一室。

林遥香はソファに沈み込んでいた。だぶだぶのマタニティワンピース。腹は不自然なほど高く、重たげに突き出ている。

部屋にはカビ臭さがこびりつき、...

ログインして続きを読む