第42章

夜八時四十分。会員制クラブの個室。

間宮社長は抜け目のない商売人で、酒が三回りもする頃には、秦野彰の隣へ女を「差し出す」段取りに入っていた。

露出の多い若い女がグラスを手に寄ってくる。秦野彰の腕に指先が触れた瞬間、彼はうんざりした顔で払いのけた。

「間宮社長」

秦野彰はグラスを置く。声に熱はない。

「商談は商談で」

間宮社長は気まずそうに「はは」と笑い、慌てて目配せして女を下げさせた。

秦野彰がトイレへ立とうとし、個室の扉を開けた、その瞬間。

廊下の角に立っていたのは――林遥香だった。

淡い色のワンピース。髪を下ろし、目の縁が赤い。泣いた後の顔。

秦野彰の足が、ぴたりと止...

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