第43章

声はやわらかく甘ったるい。まるで蜜をひとさじ垂らしたように、わざとらしいほどやさしく抑えられていた。

林夕葵は、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「そっち、お客さん?」

そう一つだけ尋ねてから、あっさりと言う。

「じゃあ、今はやめとく。残りはまた今度聞くね」

「いや、別に――」

陸川時生が引き止める間もなく、通話の向こうからは無機質な切断音が返ってきた。

彼は携帯を手にしたまま、画面を二秒ほど見つめる。顔に浮かんでいた穏やかさが少しずつ薄れ、代わりに冷えた色が沈んでいった。

振り返ると、書斎の扉口に若い女が立っていた。鵞黄色のワンピース姿で、湯気の立つスープ皿を両手に載せ、...

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