第52章 彼女が飲んだのはそもそも病気を治す薬じゃない?

陸川時生は視線を引き戻すと、秦野彰に最後のひと言を投げた。

「秦野社長。彼女のスマホに入っていた辰樹の音声メッセージ、全部消えたそうですね。そのこと、ご存じでしたか」

秦野彰の表情が変わる。

「昨日、彼女が誘拐されかけた子どもを助けて、肘打ちを食らった件は?」

秦野彰は答えない。

「今月はシクロホスファミドの量が減っています。血液データがもう持たないからです」

陸川時生はコートの襟を整えた。

「それも、ご存じない」

卓上の封筒を手に取り、そのまま鞄へしまう。

「何ひとつ知らないくせに、『妻』という言葉を盾にしないでください」

言い終えると、そのまま出ていった。

扉が開き...

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