第57章

林夕葵は逃げなかった。顎を上げ、彼をまっすぐに睨み返す。

秦野彰の手が宙で止まり、五指がぎゅっと握り拳になる。次の瞬間、彼は林夕葵の喉を掴み、背後の壁へ叩きつけるように押しつけた。

背中が壁にぶつかり、「ドン」と鈍い音がした。

「っ……!」

肺の空気が一気に絞り出され、林夕葵は痛みに短く呻く。両手で彼の手首を掴み、引き剥がそうとするが、びくともしない。力の差が、残酷なほどに明確だった。

「辰樹をどこに隠した」

秦野彰の目は血走り、こめかみの血管が浮き上がっている。

「答えろ!」

咆哮が室内を震わせた。

「どこにやったんだ! まだ何歳だと思ってる……金のためか、あの男のためか...

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