第60章 彼女が行くか行かないか、彼が決めることではない

安吾は秦野彰の肩にべったりとしがみつき、彼女に向かってべーっと変顔をした。

ちょうど彰が顔を横に向け、視線が安吾の表情をかすめる。――ぴたり、と動きが止まった。

四歳の子が高熱でふらふらしているときに、こんな顔ができるものか。

彰の歩みが、半拍だけ遅れる。

その一瞬で、林夕葵のスマホが鳴った。

彼女は取り出して画面を一瞥し、そのまま出る。

「時生さん」

「報告書の件、処理し終えた。今、話せるか?」

「うん。大丈夫」

林夕葵は廊下の反対側へ二歩ほど移動し、声量を落としすぎないまま言った。

「病院まで迎えに来てくれる? 仁和。小児救急の3階。廊下で待ってる」

「分かった。二...

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