第72章 彼が釈放されて最初にしたことは、家に帰ることではない

ナースステーションの当直カウンターには灯りがともり、看護師が二人、ひそひそと話していた。秦野彰の姿に気づくと、二人は反射的に背筋を伸ばす。

「506の隣、505は今、空いてるか」

当直の看護師が一瞬きょとんとした。

「空いております、秦野社長」

「今夜、入れる。整えてくれ」

「どの程度の患者さまでしょうか。必要な――」

「個室仕様。右腕骨折、額に外傷」秦野彰はそこで言葉を切り、「付き添いの介助員を二人。交代制で」

看護師はうなずき、足早に動いた。

秦野彰はナースステーションのカウンターに身を預け、スマホを取り出して発信する。

「秦野社長……?」林遥香秘書の声が、恐る恐る返っ...

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