第73章

入院棟の5階に着くと、彼はナースステーションに立ち寄って受付をすることもなく、506号室の前で足を止めた。

扉は閉まっている。小窓から、部屋の灯りだけが漏れていた。

半歩だけ身を寄せ、ガラス越しに中を覗く。

林夕葵は眠っていた。横向きで、掛け布団は腰まで。露わになった腕には針痕と青あざがびっしり残っている。頬はげっそり落ち、頬骨が皮膚を押し上げ、顎先は今にも突き刺さりそうなほど尖っていた。

陸川時生は、扉の前に三十秒ほど立ち尽くした。

――入らない。

踵を返し、廊下の反対側へ歩き出す。

秦野彰の臨時の控室は廊下の突き当たり。扉は半開きで、中から紙をめくる音が聞こえていた。陸川時...

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