第74章

「……それとも、知りたくないの?」

秦野彰の呼吸が、そこで止まった。

「当時、主治医ははっきり言いました。辰樹のほうが緊急だって。骨髄の適合なんて、そもそも確率が低い。今回を逃したら、次がいつになるか分からないって」

林夕葵はゆっくりと身を翻す。

「あなたが署名したのは、辰樹の優先権を放棄する書類よ」

視線が真正面から刺さった。

「インフォームド・コンセントには、あなたの名前がある。秦野彰。あなたが、自分で書いた字で」

秦野彰の顔色が、紙みたいに白くなる。

「病院で記録を取り寄せればいいわ」

林夕葵は踵を返し、病室のほうへ歩き出した。

二歩、進んでから、淡々と付け足す。

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