第81章

土砂降りだった。

黒いマイバッハが山腹のぬかるみに停まっている。秦野彰は運転席へ滑り込み、全身ずぶ濡れのまま背を沈めた。雨粒が冷たく硬い顎を伝い、ぽた、ぽた、と本革シートに落ちていく。

拭おうともしない。瞳の底に残っているのは、病的な狂気と、裏切りへの怒りだけ。

五千万の海外送金。無防備だった、あのキス。

秦野彰はセンターコンソールの暗号化インカムを掴み、通話ボタンを押し込む。

「北野秘書につなげ」

三秒。ザザ、と電波のノイズ。

「秦野社長」

「二つだ」

秦野彰の声は掠れ、言葉は矢のように速い。

「一つ目。秦野グループの海外資金プールを動かせ。陸川グループが上場したばかり...

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