第90章

夜風が長い通りを吹き抜ける。林夕葵はひとり、街灯の下を歩いていた。

薄いトレンチコート。冷えが骨の髄へと潜り込み、足が止まる。振り返れば、山腹に建つ林家の別荘が見えた。明るく灯り、まるで祝祭のように眩しい。

そこには実の両親がいる。子どもの父親もいる。――そして、彼女のすべてを奪い取った女も。

夕葵は掌を開いた。血と尿にまみれた木片が、静かに転がっている。刺さった木のトゲが皮膚を裂き、滲んだ血は乾いて黒ずんだ赤になっていた。

林国男の庇い立て。秦野彰の冷たさ。

それが交互に脳裏をよぎる。

喉の奥から、甘く生臭いものがせり上がった。夕葵はぐっと飲み下す。

そして、顔を上げた。

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