第92章 新薬

静まり返ったスイートルームに、耳障りな着信音だけがいつまでも響き続けていた。画面には「秦野彰」の文字が、執拗に点滅している。

陸川時生は手を伸ばし、スマホを取ると、親指で拒否を押した。躊躇はない。端末をベッドサイドのテーブルに伏せて置く。音はぷつりと途切れた。

彼は大きなベッドへ視線を移す。林夕葵は身体を強張らせ、眉間に深い皺を刻んでいる。

陸川時生は身を屈め、彼女の唇に自分の唇を重ねた。奪わない。深くも入らない。ただ、落ち着かせるための、短い接吻。

林夕葵の呼吸には濃い酒の匂いが混じり、さらに――ほんのわずか、血の生臭さがした。

陸川時生の気配に包まれるにつれ、彼女の硬直した背中...

ログインして続きを読む