第170章

西原司が西原家へ戻った頃には、夜の闇はすっかり深く沈みきっていた。

玄関を上がると、ちょうど小坂が二階から降りてくるところだった。

「旦那様、坊ちゃまはもうお休みになりました」小坂は声を落とし、続けて言う。「寝る前に『明日、お母さんが来る』って、ずっと言ってまして……なかなか寝つけなかったんです」

それから小坂は、どこか縋るような目で西原司を見上げた。

「旦那様……奥様、もうずいぶんお帰りになっていません」

最近、旦那様と奥様の空気が変わってきているのを、小坂は肌で感じていた。もしかしたら――離婚なんてところまで、行かなくても。

西原司は短く言った。

「仕事が忙しいだけだ」

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