社長様、奥様はずっと前から離婚したがった

社長様、奥様はずっと前から離婚したがった

ユイ · 連載中 · 552.9k 文字

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紹介

六年間、私はあの女の影に怯えて生きてきた。夫は私に冷淡で、息子も私を嫌っていた。心が完全に死に絶えるまで耐え続け、ついにすべての権利を手放し、迷いなくあの家を去り、人生をやり直した。

再び戻ってきた時、私はもうあの卑屈で我慢ばかりしていた妻ではなかった。権力を手にし、冷徹で近寄りがたい強者へと変わっていた。

息子は焦り、仮病を使ってまで私に会おうとしたが、私はあっさりと送り返した。言い寄る男たちが次々と現れ、夫はついに平静を保てなくなった。

彼は私の行く手を塞ぎ、傲慢に所有権を主張した。「お前のすべてを、俺ほど知っている人間はいない。」

彼はかつての最も親密な絆で、私の愛を取り戻そうとした。しかし私はただ冷たく言い放った。「私たちはもう離婚したのよ。」

「していない。」彼はきっぱりと言った。「離婚届には、俺は一度もサインしていない。」

私がこの遅すぎる深い愛情から再び逃げ出そうとした時、息子が泣きながら戻ってきてと懇願し、夫も低い声で哀願した——

「俺を選んでくれ……頼む、俺を選んでくれ。」

チャプター 1

周防凛は腕にはめたレディースのダイヤ付き腕時計に、ふと目を落とした。

――夜11時。

レストランで、きっかり4時間待った。

スマホには、西原司からの連絡は一件もない。

周防凛は通話ボタンを押した。

コールののち、繋がる。

「もしもし?」

女の声だった。

聞き覚えがある。西原司の高嶺の花――葉山美晴。

数秒の間。

次いで耳に届いたのは、低くて、磁力みたいに引き寄せる男の声だった。

「……何か用?」

西原司が、淡々と、距離を置くように尋ねる。

胸の奥が刃物で裂かれたみたいに痛いのに、周防凛はもう麻痺していて、

「……ううん、なんでもない」

言い終わる前に、ぷつり。

「ツー」という無機質な切断音とともに、西原司は電話を切った。

周防凛は苦い笑みを浮かべたまま、画面が明るいままのスマホをぼんやり見つめる。やがて、ブラックアウト。

今日は――結婚6周年の記念日だ。

結婚記念日に、夫は彼の高嶺の花に寄り添っている。

6年間。周防凛は何度も何度も期待して、そのたびに叩き落とされてきた。

……そもそもが、自分のせいだ。

西原司に一目惚れして、10年も追いかけ回して、無理やり結婚に持ち込んだのは周防凛だ。

彼が自分を愛していないことも、むしろ嫌っていることも、分かっていた。

それでも周防凛は西原司を愛してしまった。自分を失うほどに。

西原司が葉山美晴と連れ立って歩いていようと、周防凛は抜け出せないまま、卑屈に愛し続けてしまう……。

最後の赤ワインを飲み干し、グラスを置く。濡れた目尻を指先で拭った。

立ち上がり、バッグを取り、ひとりでレストランを出た。

    ◇

屋敷に戻ると、5歳の西原景冶がリビングで夜更かしして絵を描いていた。

「お母さん」

振り向いて一言だけ呼ぶと、また黙々とクレヨンを走らせる。

周防凛は近づき、心配そうに言った。

「景冶、どうしてまだ起きてるの。こんなに遅くまで」

西原景冶はクレヨンを握りしめ、真剣な顔で塗りつぶしながら答える。

「美晴おばさん、もうすぐ誕生日なんだ。プレゼント作るの」

周防凛は視線を落とした。

紙の上には、温かくて幸せそうな絵。

大人が二人。その真ん中に子どもが一人。

――家族三人みたいに。

でも、その「お母さん」の位置にいるのは周防凛ではなく、葉山美晴だった。

しかも西原景冶は、よたよたした文字で書き添えている。

――美晴おばさん、お誕生日おめでとう。

思わず、笑ってしまいそうになる。

5歳の西原景冶は、母親の名前は書けないのに、葉山美晴の名前は書ける。

周防凛の顔色が冴えないのに気づいたのか、西原景冶が探るように言った。

「お母さん、また怒ってるの?」

また。

「美晴おばさん」の話題になると、お母さんはいつもおかしくなって、怒り続ける。

でも、美晴おばさんはすごくすごくいい人なのに。きれいで優しくて、プレゼントもお菓子もいっぱいくれる。

それに比べてお母さんは、うるさくて、ルールが多くて、あれもダメこれもダメ。

怒らせたくなくて、西原景冶は慌てて言い訳を並べた。

「今日、美晴おばさん倒れたんだよ。だからパパは病院に行っただけ」

「お母さんは大人だもん。子どもみたいに、そんな小さいことで怒ったりしないよね?」

「それにね、美晴おばさんほんとにいい人なんだ。お母さん、嫌いにならないでよ」

期待に満ちた目。

周防凛の心臓が、鋭い小刀でえぐり取られたみたいに、鈍く痛む。

5年前――西原司は宴席で葉山美晴に一目惚れし、熱烈に追いかけた。

それ以来、彼の世界で一番は葉山美晴、二番は西原景冶。

自分、周防凛がそこに入ったことは一度もない。

「西原奥様」の肩書きにしがみついているから、彼は仕方なく妻として扱っているだけだ。

……そうでなければ、西原司はとっくに葉山美晴と結婚していただろう。

西原景冶がぼんやりした周防凛を見て、おずおずと呼ぶ。

「お母さん?」

周防凛は淡い笑みで返し、子どもの頭を撫でた。

「絵、もう終わった?」

「うん」

「じゃあ、早く寝ようね」

今回は怒られないと分かったのか、西原景冶はほっとしたように頷いた。

周防凛が風呂に入れ、寝かしつけ終えたころには、日付はとうに変わっていた。

西原景冶はうとうとしながら寝言をこぼす。

「美晴おばさん……ほんとにいい……」

周防凛の手が拳になる。指先が白くなるほど力を入れても、胸の冷えは止まらない。

皮肉だ。

自分の息子が、夢の中でまで夫の高嶺の花の名前を呼んでいる。

その夜も西原司は帰ってこなかった。

空っぽの寝室で、周防凛は一晩中寝返りを打ち続けた。

    ◇

翌朝。周防凛は早起きし、いつも通り朝食を用意した。

食べ終えた西原景冶は、部屋の隅にこそこそと隠れてボイスメッセージを送っている。

背後から周防凛が近づいていることにも気づかない。

「美晴おばさん、体、よくなった?」

「景冶、すっごく会いたい。おばさんの手作りの小さいケーキ食べたい」

文字は打てないから、いつも音声だ。

普段、お母さんは甘いものを厳しく制限する。

お母さんは嫌、美晴おばさんは好き。

その声を聞いて、周防凛は寂しげに目を伏せた。

運転手に言って、幼稚園まで送らせることにした。

車に乗った西原景冶が、不思議そうに母親を見上げる。

いつもはお母さんが絶対に送ってくれるのに。

「お母さん、今日は送ってくれないの?」

周防凛は淡々と答えた。

「うん。今日は忙しいの」

西原景冶は深く考えず、にこっとして手を振った。

車が走り出すやいなや、西原景冶はすぐスマホを取り出し、葉山美晴へ音声を送る。

――よかった。お母さんがいない。これで思いっきりおばさんと話せる。

周防凛は会社へ向かった。

西原司を追いかけるために、当時なりふり構わず西原グループに入り、総裁室付きの大勢いる秘書の一人になったのだ。

会議中、書類を届けに行った周防凛は、ガラス扉越しに会議室の中心へ目をやる。

西原司がいた。

彫りの深い目元。高い鼻梁。薄い唇。

仕立ての良い黒のスーツ。腕のパテックフィリップが鈍い光を返す。

一挙手一投足に、上に立つ者の威圧が滲んでいた。

部長が何か失言したのだろう。西原司が眉をひそめ、会議室全体が息を殺したような重さに沈む。

周防凛はほんの一瞬、彼を見ただけで、心がまた乱れた。

書類を渡し、デスクに戻って黙々と仕事に没頭する。

冬は日が落ちるのが早い。退勤時間には外はもう真っ暗だった。

周防凛は車でケーキ屋へ向かった。

西原景冶にご褒美として小さなケーキを買い、母子の関係を少しでも和らげたかった。

――その途中、金色の灯りが水面に揺れる湖畔のレストラン前を通りかかり、知っている姿が目に入った。

西原司と葉山美晴がディナーをしている。

しかも、西原景冶も一緒。

葉山美晴が丁寧にステーキを切り分け、西原景冶は満ち足りた笑顔を浮かべている。

西原司は、優しい目で葉山美晴を見つめていた。

周防凛の手がぎゅっと握り締められる。爪が柔らかい掌に食い込み、いつもの痺れる痛みが胸をえぐった。

――本物の家族三人は、あの人たちだ。

6年だ。

周防凛、たぶん、もう目を覚ますべきなんだ。

10年好きで、子どもまで産んだのに、彼は一度もまともに自分を見てくれなかった。

家の圧力がなければ、彼は最初から結婚などしなかった。

周防凛はケーキ屋へは行かず、そのまま西原グループへ車を走らせた。

総裁室付きはまだ数人が残業していた。

冷えた指先のまま、周防凛は離婚協議書を淡々と作成する。

完成したそれを封筒に入れ、大村静也に託して渡してもらうことにした。

同じ秘書室でも、西原司は基本、周防凛を自分のオフィスへ入れさせない。

大村静也は、周防凛と西原司の本当の関係を知る数少ない人物だ。

――西原様は周防凛が嫌い。結婚は無理やり。

そのくせ周防凛は図々しく張り付いている。

封筒を受け取った大村静也は、ぼそりと吐き捨てた。

「……かったりぃ」

総裁室を出る前に周防凛は振り返り、西原司のオフィスを深く見つめた。

表情は淡々としていて、かつてのような熱も、派手さもない。

西原司――10年。

もう、自由にしてあげる。

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