第30章

視線がぶつかった瞬間、空気がきゅっと凍りついたみたいだった。

互いに、挨拶を交わす気配はない。

雨村だけが、西原司の姿を認めるなり、すぐさま礼儀正しく口を開いた。

「西原様、おはようございます」

西原司は小さく頷く。

葉山美晴が足早に近づき、自然な仕草で西原司の腕に絡みついた。周防凛の姿を見た途端、彼女の笑みがほんのわずかに引きつる。

西原司はどこか上の空だった。

視線は、周防凛の腕の中に収まっているものへ――相変わらず、吸い寄せられている。

あのメンズのスーツジャケットの存在に、彼はとっくに気づいていた。ただ、見なかったことにしていただけだ。

最初は平岡貴利のものだと思っ...

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