第4章

「死体だと?!」

 凍りつくような静寂が、瞬時に全員の喉元を締め上げた。つい先ほどまで勝利の狂騒に酔いしれていた石黒一家の表情が、一斉に硬直する。

「馬鹿馬鹿しい! にも程があるわ!」

 真っ先に我に返ったのは母の朋美だった。その上品で華やかな顔が唐突に歪み、驚愕は瞬く間に狂暴な蔑みへと呑み込まれていく。彼女は勢いよく立ち上がると、鼓膜を突き破らんばかりの金切り声を上げた。

「どこの三流劇団から雇われたエキストラかしら! こんな見え透いた芝居を私の前で打つなんて! あのろくでなしの綾花が死ぬわけないじゃない! どうせ罰を逃れるために、同情を引こうとして打った大根芝居に決まってるわ!」

 朋美は血相を変えてスピーカーに向かって吠えた。

「その身の程知らずの小娘に伝えなさい、死んだふりはやめろってね! 詐欺師を何人か買収して悲劇のヒロインを気取れば、妹を誘拐させようとした罪を許してもらえるとでもお思い? 寝言は寝て言いなさい! 警告しておくわ。今すぐこの茶番をやめないと、ただじゃおかないから!」

 一切の驚きも悲しみも微塵も見せず、彼女の怒りは正当なものとして燃え盛っている。この実の母の認識において、私の死すらも計算と悪意に満ちた卑劣な手段でしかないのだ。魂の奥底で、すでに死んでいるはずの私でさえ、吐き気を催すほどの幻痛を覚えた。

「奥さん、言葉を慎みなさい」

 電話越しの声は、いっそう威厳を増し冷酷に響く。

「私はL市重大犯罪捜査班の主任警部、白原貴之だ! これ以上警察の捜査を妨害する気なら、いつでも署までご同行願う権限がこちらにはある!」

 警部の鋭い一喝に、父である昭一郎の眉がピクリと動いた。それでも彼は家長としての威厳を必死に保ち、冷笑を浮かべ続ける。

 しかし白原は彼に口を挟む隙など一切与えず、氷のように冷たく機械的な報告を重いハンマーのように振り下ろし、リビングの虚飾に満ちた平穏を粉々に打ち砕いた。

「匿名の通報を受け、我々はLast Hopeの貯蔵室で被害者を発見した。監察医の初期所見によれば、死者は無麻酔の状態で複数の主要臓器を乱暴に摘出されており、死後最低でも三日は経過している!」

 三日以上。死臭。乱暴な摘出。

 血生臭い言葉の連撃が、ようやくこの高みに立つ者たちに一抹の戦慄を覚えさせた。

 昭一郎は顔を曇らせ、歯を食いしばって反撃に出る。

「白原貴之と言ったな? よく聞け、ここには早森家の当主である秀生様がいらっしゃるんだ! お前たちがもしあのクズと結託して石黒家を騙そうとしているなら、秀生様が絶対に容赦はせんぞ!」

 一触即発の空気が張り詰める中、ソファの隅に縮こまっていた好恵が、気付かれないほどわずかに身を震わせた。

 つい先ほど秀生の胸に飛び込んで勝利を誇示していたこの完璧な養女は、スカートの裾を死に物狂いで握り締め、指の関節を病的なまでに白くさせている。

 彼女は誰よりも真実を知っているのだ! 悪臭を放ち、内臓をくり抜かれたあの死体は、他でもない彼女の実の母、美枝子の傑作に違いないのだから! 三日前のあの血塗られた手術台の上で、私がどれほどの絶望の中で泣き叫びながら息絶えたか、彼女は克明に覚えているはずだ!

 しかし、私の目の眩んだ家族たちは、殺人鬼の震えを見事に勘違いした。

「好恵、俺の宝物、怖がらなくていい!」

 兄の颯斗が真っ先に駆け寄り、全身を震わせる好恵をきつく抱きしめる。彼は血走った目でスマートフォンを睨みつけた。まるで私が彼の目の前に立っているかのように。

「見ろ! 綾花っていうイカれた女を! 外に隠れて死んだふりをして、こんな血生臭い嘘をでっち上げて妹を脅かすなんて! あいつは好恵の幸せが許せないだけなんだ!」

「私のいい子、あんな奴らの戯言を聞いちゃ駄目よ!」

 朋美は好恵の背中を優しく叩きながら、最も悪意に満ちた言葉で私を呪詛した。

「あの疫病神はゴキブリみたいにしぶといんだから! これは罰から逃れるために、わざと私たちを苦しめようとするあの子の罠に決まってるわ!」

 殺人鬼をこの上なく庇護し、私の死体にはありったけの罵詈雑言を浴びせる彼らを見て、私の魂は絶望的で凄惨な咆哮を上げた。

 どうして?! 真実はすぐ目の前にあるというのに。あなたたちはこれが私の悪辣な陰謀だと信じ込み、ほんの少しの疑念さえ抱かずに、あの残骸を見に行こうともしないの?!

「もういい」

 氷穴のように底冷えする低い声が、この荒唐無稽な茶番を唐突に断ち切った。

 秀生だった。

 彼はゆっくりとスマートフォンを収めると、深淵のような黒い瞳に暴虐と冷気を渦巻かせた。

「ここまで芝居を打たれたなら、直接見に行ってやらないと綾花の『涙ぐましい努力』が報われないというものだ。責任逃れのために、あいつが一体どんな小細工を弄しているのか、この目で確かめてやろう」

 彼は言葉を区切り、薄い唇に酷薄な冷笑を浮かべた。

「もしこれがただの悪ふざけだと分かったら……誓って言うが、地の果てまで逃げようと絶対に許しはしない!」

 一同はすぐさま、すがるようにその言葉に同調した。

「その通りだ! 今すぐあいつの化けの皮を剥がしてやる!」

 昭一郎は鼻で笑う。

「あんな卑しい女が、そう簡単に死ぬものか!」

「ふん、正直な話、あの性悪女がボロい貯蔵室で本当に死んだなら、むしろ石黒家にとっては慶事だよ!」

 颯斗は冷酷に好恵を庇いながら吐き捨てた。

「どうせくだらない命だ。あいつを引きずり出したら、絶対に生皮を剥いでやる!」

 彼らは口々に、私をいかにして「裁き」にかけるかを話し合う。そのあまりにも軽い言葉の数々は、最も強烈な平手打ちとなって、私の透明な魂を容赦なく打ち据えた。

 ここに至り、私はついに、はっきりと完全に理解した。

 この家では、誰もかもがこれほどまでに待ちわびていたのだ。

 私の死を。

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