第30話

「大丈夫。ただ……ちょっと疲れただけ」

神谷悠真に抱き寄せられるのは、どうにも落ち着かない。私は何事もなかったみたいに身体をそっと横へずらし、話題を変えた。

「そうだ、今日はありがとう。あなたが手を貸してくれなかったら、黒瀬蓮の封鎖を抜けて、美玲が私を陥れた証拠をネットに流すなんて無理だった」

「礼を言う相手は俺じゃない。神谷怜だよ。前にも言っただろ。俺が君に優しくするのは、怜が君を好きだからだ」

悠真は、空になった自分の手をちらりと見た。視線が一瞬だけ翳り――けれどすぐに整えて、いつもの穏やかな笑みを作る。

神谷怜……。

そうだ。私は、きちんと彼に礼を言わなきゃいけない。

悠...

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