第32話

後になって知ったのだけれど、美玲はまた、あの手の悲劇のヒロインぶった芝居を打っていた――。

果物ナイフで手首に浅い傷を何本か走らせ、黒瀬蓮の肩に縋りついて泣きじゃくりながら、彼にこう言ったらしい。自分のことは忘れて、「白石紗月」と幸せになって、と。

黒瀬蓮は彼女の傷口を押さえ、助手を呼んで病院へ送らせたうえで、ネット上の彼女に不利な報道は自分が直々に対処すると約束したという。

――けれど、その頃の私は何ひとつ知らなかった。

ただ、スマホの画面から次々と消えていくトレンドを見つめていただけ。指先は氷みたいに冷たかった。

黒瀬グループの広報が、ようやく動いたのだ。

私がネット中から罵...

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