第67章

黒瀬律はその場に立ち尽くし、怒りに燃えていた目が、ふっと焦点を失っていく。まるで、胸の奥の支えを誰かに抜き取られたみたいに。

周囲から飛んでくる非難が、針のように耳へ突き刺さる。相手はまだ五、六歳の子どもだ。こんなもの、受け止めきれるはずがない。

目尻が赤く染まったかと思うと、律は勢いよく美玲を押しのけ、黒瀬蓮のもとへ駆け寄った。そして、父の脚にしがみつくように抱きつく。

「パパ、ぼく悪くない! 悪いのはママと神谷怜だ!」

「……もういい、黒瀬律。泣くな」

正直、さっき律が口にした『白石紗月が黒瀬綾子に跪いて仕えている』という言葉は、黒瀬蓮にも少なからず衝撃だったのだろう。彼の口元...

ログインして続きを読む