第82章

「白石紗月。分かってるだろ。俺たちが動かせる金も人脈も、桁が違う。俺が首を縦に振らない限り――お前が訴えたところで、離婚なんて成立しない」

黒瀬蓮の声は大きくない。なのに、一語一語が氷みたいに冷たくて、私は無意識に服の裾を握りしめた。

「もちろん、神谷怜の父親に泣きつく手もあるだろうな」

彼は二歩、こちらへ詰める。重たい視線が、じわりと肩にのしかかった。

「だが忘れるな。お前と神谷怜の父親は、ただの友人だ。お前のために黒瀬グループと真正面からやり合うと思うか?」

私は彼を睨みつけたまま、背中を壁に押しつける。ざらついた石が皮膚に食い込み、痛みに眉が寄った。

「脅してるの?」

「...

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