第86章

「黒瀬蓮、聞こえたでしょう?」

声は震えているのに、私は意地でも引かなかった。

「あなたの息子は、私を母親だって認めたくないんだって。そこまでされて、私が神谷怜と親子競技に出たらダメなの? あなた、どれだけ横暴なのよ」

「……黒瀬蓮さん、黒瀬律くんが申込書に記入したのは、確かに律くんと美玲さんのお名前です」

佐藤先生が軽く咳払いし、慌てて書類を探し出すと、私たちの前の机にそっと置いた。

私は視線を落とす。

薄い紙切れ。保護者欄には、端正に「美玲」と書かれていた。幼い字なのに、妙にくっきりしていて――一本一本が、針みたいに胸へ刺さる。

つまり……黒瀬律が、自分の手で私を神谷怜のほ...

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