第4章
蓮と出会ったのは高校二年の時だ。クラス替えの日、私は理系一組に割り振られた。
教室は知らない顔ばかり。私は鞄を抱えたまま入り口に立ち尽くし、一番隅の席を見つけて腰を下ろした——窓際、最後列だ。
落ち着く間もなく、後ろの椅子が引かれる音がした。
振り返る。
四方堂蓮がそこに立っていた。制服のボタンは半分しか留めておらず、中の白いTシャツの襟元が覗いている。彼は私を一瞥したが、何も言わずに鞄を机に放り投げ、どかっと座り込んだ。
私の心臓が早鐘を打つ。
その音が彼に聞こえてしまうのではないかと思うほどに。
図書室は校舎の三階にあり、放課後は毎日そこへ通った。
勉強のためではない。家の中があまりに寒々しいからだ。父は仕事から帰ると、玄関先に座り込んで煙草を吹かすばかり。一本、また一本と。ズボンに灰が落ちても気にも留めない。母はコンビニの夜勤で、帰ってくるのは空が白む頃だ。
図書室には暖房が効いているし、視線を遮る書架もある。
私は隅っこに身を潜め、本を読んでいるふりができた。
その日、私は参考書を借りようとした。
司書は眼鏡をかけた女性教師で、私の図書カードを確認すると眉をひそめた。
「この本は補償金が五百円必要よ。カードの残高が足りないわ」
「私……」
カードを握りしめる。
「先に借りられませんか? 来週には返しますから」
「駄目よ」
彼女はカードを突き返した。
「決まりは決まり」
私はその場に立ち尽くし、顔から火が出る思いだった。
背後から数人の女子の笑い声が聞こえる。
「五百円も出せないの?」
「あの子の家、郊外ですごく貧乏らしいよ」
「じゃあどうやって入学したの? 裏口とか?」
私は伏し目がちに踵を返し、立ち去ろうとした。
「待てよ」
蓮の声だった。
彼は書架の陰から現れると、手にした図書カードを司書に差し出した。
「俺のカードを使ってくれ。彼女に貸してやって」
司書は一瞬呆気にとられたが、カードを受け取ってスキャンした。
「四方堂くん、いいの?」
「ああ」
彼は私に本を押し付け、低い声で言った。
「クラスの足、引っ張るなよ」
本を受け取る際、指先が彼の指に触れた。
熱かった。
それ以来、私は彼を目で追うようになった。
わざとじゃない。どうしようもないのだ。
彼は私の後ろの席だ。ページをめくる音が聞こえ、微かな洗剤の香りが漂ってくる。時折、机に突っ伏して寝ていることもある。その寝息はとても静かで、私は彼を起こさないよう、無意識にペンを走らせる速度を緩めていた。
彼は人気者だった。
女子たちは何かと理由をつけて彼に話しかける——ペンを借りたり、勉強を教わったり、部活に誘ったり。
彼は決して拒絶せず、いつも笑って応じていた。だがその漫然とした笑みは、相手が誰であっても変わらないように見えた。
ある時、隣のクラスの女子が彼の下駄箱にラブレターを入れるのを見たことがある。
彼はそれを開いて一瞥し、畳んで鞄にしまった。
返事もせず、拒絶もしない。
前の席に座る私は、問題を解くふりをしながら、ペン先で紙に穴が開くほど強く押し付けていた。
中間テストの前日、私はまた図書室へ行った。
あの参考書を、もう一度借りたかったからだ。
司書は履歴を確認して言った。
「前回は四方堂くんが貸してくれたのよね? 今回は?」
私は唇を噛んだ。
「自分で……」
「俺のカードで」
いつの間にか、蓮が背後に立っていた。
彼がカードを差し出すと、司書は微笑んだ。
「仲が良いのね」
弁解しようとしたが、彼はもう背を向けて歩き出していた。
私は慌てて追いかける。
「あの……ありがとう」
彼は足を止め、振り返った。その瞳は澄んでいる。
「礼には及ばないよ。クラスメイトだろ」
クラスメイト。
私は小さく頷いたが、胸の奥で何かが音を立てて沈んでいくのを感じた。
帰り道、その言葉が頭から離れなかった。
クラスメイト。
彼にとって、私はその他大勢の女子の一人に過ぎないのだろう。私に図書カードを貸すのも、他の子にペンを貸すのも、何の違いもないのだ。
コンビニの前で立ち止まり、ガラス越しにレジで働く母の姿を見た。髪は乱れ、顔には疲れた笑みが張り付いている。
私は店には入らなかった。
きびすを返してバス停へと向かう。手にはあの参考書が握りしめられていた。
本は重く、腕が痺れるほどだ。
けれど、私は決してそれを手放さなかった。
その夜、ベッドに横たわり天井を見つめた。
脳裏を占めるのは、「クラスメイト」と言った時の彼の表情だ——優しくて、礼儀正しくて、そしてどこか余所余しい。
寝返りを打ち、枕に顔を埋める。
こうして遠くから見ているだけでいい。
少なくとも、それなら嫌われることはないのだから。
