第8章

真理奈の視点

 廊下の突き当たりに、聡が姿を見せた。

 その手には何かが握りしめられている。ちらりと目をやると、由香子が前に買ってやった小さなおもちゃだった。汗でぐしょぐしょになり、角はふやけて丸くなっている。

 泣きもしない。誰かを呼びもしない。ただそこに立って、ぽつりと言った。

「……会いに行っても、いい?」

 誰も答えなかった。

「……ただ、会いに行きたいだけなんだ」

 二度目は、もっと小さな声だった。

 保志が彼の横で足を止めた。見下ろしたまま、長いこと黙っている。それから膝をつき、落ち着き払った声で言った。

「覚えてるか。あの人が最後にお前に近づこうとしたとき――...

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