第2章
どれくらいの時間、そこに立ち尽くしていたのだろう。数秒か。数分か。時間の感覚がもう、現実のものとは思えなかった。
個室のドアが開いた。スマホを片手に玲奈が出てくる。そして私を見るなり、その動きが凍りついた。
恐ろしいほどの沈黙の中、私たちはただ互いを見つめ合った。
「歩美!」彼女の立ち直りは早かった。すぐさまあの明るい笑顔を顔面に貼り付ける。「入ってきたの、全然気づかなかったわ。長く待った?」
私の顔色を窺っている。どこまで聞いていたのかを探っているのだ。
「今来たところ」嘘は滑らかに出た。自動的に。「乾杯続きで、ちょっと休憩したくて」
玲奈は声を上げて笑い、すでに鏡に向かって口紅を直し始めていた。「あー、もう本当よね。お父さんの話、年々長くなってるもん」
私は鏡越しに彼女を見つめた。何気ない仕草でメイクを直す様子。その手の安定感。たった今、私の人生を破壊する計画を立てていた人間とはとても思えない。
「電話、誰だったの?」私は尋ねた。
彼女の手が一瞬、止まった。「ああ、ただのクライアントよ。不動産業界って大変でしょ? 時間なんてお構いなしにかかってくるんだから」
嘘つき。
「そろそろ戻りましょ」玲奈は口紅をクラッチバックに放り込み、目が笑っていない笑顔を私に向けた。「明日は大事な日でしょ?」
「そうね」私は無理やり笑顔を返した。「大事な日だもの」
化粧室を出て彼女の後を追う私の足は、まるで自分のものではないように頼りなかった。
その後の食事会は、まるで霧の中にいるようだった。笑うべきところで笑い、翔太が手を握ってくれれば微笑み返した。けれど、今の私の目は節穴ではなかった。しっかりと見ていた。
誰も見ていない隙に、翔太の視線が部屋の向こうの玲奈を追っていること。
玲奈が翔太の椅子の後ろを通る時、その手が彼の肩に意味ありげに残ること。
そして両親が、部屋の隅でおとなしく遊んでいる拓海――玲奈の里親として預かっている子供――に向ける、妙に優しい眼差し。まるで、何かを知っているかのような。
知らなかったのは、私だけ?
玲奈が家族の食事会にあの小さな男の子を連れてきた時の、数々の場面を思い出す。翔太がいつも口実を作ってはあの子と遊んでいたこと。私の婚約者を見たとき、拓海のグレーの瞳がパッと輝いたこと。
微笑ましい光景だと思っていた。翔太は子供の扱いが上手なのだと。
ああ、なんて馬鹿だったんだろう。
食事会がお開きになり、翔太の運転で帰路についた。私はずっと窓の外を眺め、彼の問いかけには単語だけで答えた。
「大丈夫か? 歩美」彼が私の手に触れる。「口数少ないけど」
その感触に、肌が粟立つような嫌悪感を覚えた。
「ちょっと疲れただけ」私は言った。「明日は長い一日になるし」
「最高に長い一日にな」彼は笑った。かつて私が愛した、あの魅力的な笑顔で。「でも、それだけの価値はあるだろ?」
私は彼を見た――その本性を直視した――そして、どうして今まで気づかなかったのか不思議に思った。その完璧な仮面に入ったひび割れに。安っぽい言葉の裏にある欺瞞に。
「……ええ、あるわね」私はそのまま言い返した。
家に着くと、翔太は数分で眠りに落ちた。私は暗闇の中で彼の隣に横たわり、寝息を聞きながらその時を待った。
彼が完全に熟睡したのを確かめてから、ベッドを抜け出す。
化粧台の横に置かれた彼のブリーフケース。彼はいつもこれを肌身離さず持っていた。仕事のストレスのせいだと思っていたが、今ならわかる。他に何を隠していたのかを。
サイドポケットからそれは見つかった。二台目のスマホ。安っぽいプリペイド式。足がつかないように使われる類のものだった。
電源を入れる手が震える。
パスコードは、拓海の誕生日だった。やはり、そうか。
画面を埋め尽くすメッセージ。送信元はすべて「R」。
「もう会いたい」
「これが終わるのが待ちきれない」
「今日、拓海があなたのことを聞いてきたわ。もうすぐだよって言っておいた」
さらにスクロールする。内容はさらに悪質になっていった。写真だ。見たくもないものが目に飛び込んでくる。寝間着姿の玲奈。そして、どう見ても私たちのベッドにいる玲奈。
私たちのベッドで。
胃がひっくり返りそうだったが、私は手を止めなかった。
次に見つけたのは銀行の振込履歴だ。
毎月、玲奈名義の口座に送られる数十万円、いや数百万円単位もの送金。過去三年にわたって続いている。その金額には見覚えがあった。翔太が会社の「ボーナス」だと言っていた額と一致する。
だが、本当に血の気が引いたのはそれだけではなかった。
もっと高額な送金履歴があったのだ。大和商事と記された口座からの入金。摘要には「コンサルタント料」や「マーケティング費」などとあるが、私にはその正体がわかっていた。
富裕層向けのウェディングプランナーとして八年間働いてきた私は、お金の流れには詳しい。人はいかにして金を隠すか。知られたくない金をどう動かすか。
翔太はただ私を裏切っているだけじゃない。その資金を作るために、会社から横領しているんだ。
私はバスルームの床に座り込み、スマホを握りしめたまま長い時間を過ごした。自分が知っていると思っていたすべてが、音を立てて崩れ去っていく証拠を前にして。
三年間の交際。一年かけて準備した結婚式。その間ずっと、彼は私の知らないところで姉との生活を築いていたのだ。
結婚式を中止にすることもできる。
その考えが、単純かつ明白な答えとして浮かんだ。破談にする。二人が何をしたかみんなにぶちまける。被害者を演じて、同情を買う。
でも、その先は? 玲奈は泣いて、翔太に誘惑されたのだと嘘八百を並べ立てるだろう。両親は彼女の肩を持つ――いつだってそうだった。そして私は、結婚式で捨てられた哀れな妹として終わる。
まただ。また馬鹿を見るのは私。
私の中で何かが変わった。ショックは薄れ、代わりにもっと冷たく、硬質な何かが満ちていく。
あいつらは結婚式を望んでいる。それを当てにしているのだ。「半年間はおしどり夫婦を演じる」と玲奈は言っていた。その後で離婚し、慰謝料をせしめ、私の金と私の尊厳を奪って二人で高飛びする気だ。
私を世間知らずだと思っている。何も気づかない、人を疑うことを知らない馬鹿だと。
……大きな間違いだ。
泣き叫んで修羅場を作ることもできる。
あるいは――あいつらが望むものを、そのままくれてやることもできる。一生忘れられない結婚式を。
私は自分のスマホを手に取り、電話をかけ始めた。
