第6章

羽田空港の到着ロビーは、いつものように喧騒と混雑に満ちていた。

アイマスクを外すと、長旅の疲労がまだ身体の芯に残っているのを感じた。

スーツケースを受け取り、空港を出ると、東京の夏特有の湿度の高い熱気が私を迎えた。

『森島星子、おかえりなさい』

私は心の中で、この三年使い続けてきた名前を呟いた。

新宿区のホテルは、学術交流会の主催者が手配してくれたもので、部屋は広くはないが、清潔で快適だった。私はバスルームの鏡の前に立ち、無意識に指先で鼻の頭に触れる。かつて『佐藤寧子』の身分を象徴していた小さな黒子が、三年前の手術で跡形もなく消え去っている。

「星子さん!」

会議ホ...

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