第28章 彼と他の人がおそろいの指輪をつける

名取佳奈が帰ろうとした矢先、不動産屋から電話が入った。彼女名義の土地に買い手がつき、面談したいという。日時は翌朝9時。

名取佳奈はあっさり承諾した。

あの土地は辺鄙な場所にあり、売れるだけでも御の字だったからだ。

日が傾く頃に帰宅しても、薄井礼央の姿はなかった。

けれど、胸が落ちることもない。波風ひとつ立たない。

もう、薄井礼央が帰らないだけで悲しくなるような時期は過ぎていた。今思えば、昔の自分は本当に愚かだった。空っぽの家の寂しさに耐えながら、薄井礼央が別の女と艶めいた時間を過ごしているのを――ただ黙って見過ごしていたのだから。

名取佳奈は力なく首を振り、部屋へ戻って身支度を整...

ログインして続きを読む