第33章 彼女を先にさせる

名取佳奈は小さくうなずいた。声は凪いだまま、瞳の奥には冷えた色だけが浮かんでいる。

「大丈夫です。もう慣れてますから」

――慣れていなくても、慣れるしかない。

それに、もうどうでもよかった。いま佳奈が気にしているのはただひとつ。中にいるウェンナート医師が、この手を治してくれるのか、それだけだ。

その後も不満げな視線は消えなかったが、薄井礼央が札を握らせると、露骨に態度を変える者も出てきて、渋々道が空いた。

薄井礼央は須藤唯を連れて、列の中ほどへ割り込む。名取佳奈の位置から、二、三人後ろ――ただし、佳奈のほうが前だ。

そこでようやく薄井礼央は名取佳奈の存在に気づいた。

一瞬だけ驚...

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