第35章 陸野雲平の妹

名取佳奈は目を伏せ、無事なほうの手で、掌の中の精巧な箱をそっと撫でた。高級な腕時計が静かに収まっていて、文字盤はやわらかなのに贅沢な光を返している。つられるように、彼女の唇の端もわずかに持ち上がった。

交通事故で右手を傷めてからというもの、周囲の薄っぺらい愛想には慣れきっていた。薄井家の冷たい視線も、同情か蔑みか分からない外野の目も、とうに彼女の心の扉を固く閉ざさせている。

けれど、陸野雲平の贈り物には打算がなかった。功利も、駆け引きも、ひとかけらもない。ただ彼女の手が治ることを自分のことみたいに喜び、彼女を喜ばせたくて用意した――それだけ。

こんなまっすぐな「気にかけられ方」は、薄井...

ログインして続きを読む