第46章 囚われる

指先から、なめらかで艶のある音がこぼれ落ちていく。名取佳奈は純粋な音楽の中へ沈み込み、煩わしい現実も、胸の奥の痛みも、束の間すべて置き去りにした。久しく忘れていた静けさと、ささやかな幸福だけが戻ってくる。

――そのとき。

スマホが突然鳴った。薄井礼央からだ。

名取佳奈は眉をひそめる。

この男のせいで、自分のリズムを崩したくない。

でも、出なければ出ないで、薄井礼央はしつこくかけ続ける。最悪、ここまで押しかけてくる可能性だってある。せっかく取り戻したわずかな安寧を、踏みにじられたくなかった。

迷った末に通話を取る。

「佳奈、俺の深紺のシルクのネクタイ、どこに置いた?」

受話口か...

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