第55章 わざと彼を振り回す

そう言い終えると、名取佳奈は踵を返した。だが次の瞬間、薄井礼央に手首を掴まれる。

「お前がどこへ行こうが、俺はついていく。……それとも何か、俺に知られたくない後ろ暗いことでもあるのか?」

名取佳奈は目を見開き、反射的に言い返しかけた。けれど――ウェンナート医師の治療を受けに行くことだけは、薄井礼央に知られるわけにはいかない。

喉元まで出かかった言葉を、ぎゅっと飲み込む。

「そこまで言うなら、ついてくればいいわ」

名取佳奈は一歩引いてみせるように言うと、先に車へ乗り込んだ。

急な態度の変化に、薄井礼央は一瞬だけ呆けた。

ついさっきまで火花が散るようだったのに、今は妙に大人しい。名...

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