第65章 彼女は必要としない

名取佳奈は歯を食いしばって身をよじった。けれどびくともしない。結局、顔を上げて薄井礼央を睨みつけるしかなかった。

「離して! 薄井礼央、いい加減にして!」

薄井礼央は視線を落とす。鼻先が触れそうな距離。唇の隙間から、熱を含んだ息がこぼれた。妙に人を惑わせる温度。

「言っただろ。俺たちは夫婦だ。何をしたって当然だ。婚姻届が生きてる限り、お前は俺から逃げられない」

近すぎるその顔を見て、佳奈は心の中で冷たく笑った。

夫婦? 笑わせる。

薄井礼央の胸の中の高嶺の花は須藤唯だ。自分に向けられるのは責任だけ。何年も冷たく放っておいて、いまさら「夫婦」だなんて。

そんな厚かましいことを言っ...

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