第72章 ただの癇癪にすぎない

薄井礼央は大股で歩き続け、車に乗り込んだ瞬間、ハンドルへ拳を叩きつけた。

ぷあぁん、と耳を刺すクラクションが駐車場の静けさを裂く。だが胸の奥に居座る、息が詰まるほどの鈍い痛みは散らない。

名取佳奈が、変わった。

さっきの視線は氷みたいに冷たく、欠片ほどの未練もなかった。

その無関心さは、どんな口論や泣き喚きよりも、彼を無力にした。

薄井礼央はしばらく呆然としていたが、宮本浩からの電話で我に返り、ようやく合流先へ車を走らせた。

目的の店に着き、個室の扉を押し開けた途端――どっと喧騒が押し寄せる。煙草と酒の匂いに香水が混ざり、むっとした空気が肌にまとわりついた。

宮本浩と高橋隼樹ら...

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