第73章 薄井社長は本当に暇だ

須藤唯也は名取佳奈に気づくと、唇の端をふわりと持ち上げ、甘くやわらかな笑みを浮かべた。薄井礼央の腕に絡めていた手をほどき、わざわざ佳奈のほうへ歩み寄ってくる。声は蜜みたいにとろけていて、指でつまめそうなほどだ。

「佳奈、偶然ね。あなたもウェンナート医師のところ?」

名取佳奈の視線は、彼女がわざと見せつけるように突き出した細い手首へ落ちた。白い肌の上で、細かなダイヤが散ったブレスレットがきらりと光る。

――去年の自分の誕生日に、薄井礼央が贈ってきたジュエリーセット。その中の一本。

派手すぎて数えるほどしか着けなかった。いつの間にか見当たらなくなって、気づけば須藤唯の手首に収まっている。...

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