第86章 すぐに彼に自由を返す

薄井礼央は、むしろ抱きしめる腕に力を込めた。意地でも離す気がないらしい。

酔いで頭が回っていないのだろう。口から出てくるのは支離滅裂な言葉ばかりで、そこには不満と恨み言が混じっていた。

「離さない……お前は全然気が利かないし、優しくないし、俺のこと一回もなだめてくれない……唯は違う。あいつは聞き分けがよくて、優しくて、何でも俺に合わせてくれる。今日だって山岳地帯の子どもと話して、物資配って……あんなに善良で、あんなに綺麗で……」

ぶつぶつ、ぶつぶつと。薄井礼央の頭の中は須藤唯の「優しさ」と「善意」で埋め尽くされ、名取佳奈への責め言葉だけが増えていく。

名取佳奈は抱き込まれたまま、それ...

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