第87章 誘拐

名取佳奈は胸の奥がひやりとした。反射的に逃げようとした、その瞬間――男のひとりが素早く手を伸ばし、彼女の口をがっちり塞ぐ。

もうひとりは腕を掴んだ。骨が軋むほどの力で、指が食い込む。

四肢を完全に押さえ込まれ、身動きひとつ取れないまま、次の瞬間には黒いワンボックスへ引きずり込まれていた。

ドアがどん、と重く閉まる。エンジンが唸り、車は勢いよく走り出す。

ワンボックスはでこぼこの土道を跳ねながら、三十分近くも飛ばした。窓の外の景色は、華やかな高級住宅街から、荒れ果てた郊外の廃墟へとじわじわ変わっていく。背の低い雑草が伸び放題で、崩れた壁や瓦礫がそこかしこに転がっていた。空気には土埃と腐...

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