第89章 二者択一

誘拐犯の陰湿な視線が名取佳奈と須藤唯を舐めるように往復し、薄井礼央へ向けて、言葉を一つずつ噛みしめるように告げた。

「この女ふたり――ひとりはお前が心の底で大事にしてる女。もうひとりは、正式に娶った奥さんだ。選べるのはどっちか一人だけ。残ったほうは……死ぬしかねえ」

その瞬間、廃ビルの一室の空気が、ぱきりと凍りついた。

須藤唯はもともと青ざめていた顔から、さらに血の気が引いていく。薄井礼央を見つめ、涙をぽろぽろ零しながらも、どこか覚悟を決めたような表情を作った。

「礼央……佳奈を選んで。彼女があなたの奥さんなんだから。私はいいの、気にしないで……」

言葉は切実で、まるで本当に自分を...

ログインして続きを読む