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「いや……」

ハドリアンとケンゾーを見つめる私の声は、パニックで震えていた。

永遠とも思える時間、聞こえるのは狂ったように打ち鳴らされる心臓の音だけ。耳を塞ぐほどに、容赦なく。私の視線は二人に釘付けになり、恐怖でその場に凍りついていた。二人は口論していた――いや、ただの口論じゃない――争っていた。その声は鋭く、一触即発の空気を孕んでいる。二人の間に漂う緊張感は息が詰まるほどだった。ギャレスとローナンが割って入り、怒りが暴力に変わる前に二人を引き離さなければならなかった。

息ができない。ここから離れなければ。今すぐに。

心が追いつくより先に足が動き、私を扉へと突き動かした。廊下に...

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